【読書感想】介護職がいなくなる(著者:結城康博)
高齢者が老人ホームに入居するのは、自宅での介護が限界にきていたり、高齢者が急病で倒れたのちに入院している病院から退院を迫られたりなど、切羽詰まっていて選択肢がない場合も多い。
人間、心に余裕がないときに何かを選ぶと、ロクなことはないものである。
最近、独り暮らしの親類が高齢になってきて、今後のことを考える必要が出てきた。
余裕がある今のうちに介護のことを調べておこうと思った。
老人ホームに長期間入居する身内は今までいなかったので、介護関連の本を読むと初めて知ることも多い。
そんな中で選んだのが「介護職がいなくなる」という本だ。
全90ページに満たない本なので、短い時間でさっと読める良著だと思う。
本書は、介護職をしたことがある人ならば知っている話が多いだろう。ただ私には、本書は現在の介護職を取り巻く課題が簡潔にまとめられていて分かりやすかった。
本のタイトル「介護職がいなくなる」
著者: 結城康博
出版社: 株式会社
出版年: 2019年
介護職が辞める理由
「介護職が辞める理由」としては「人間関係」が第一の理由として挙げられている。
また、よく言われているように「激務(夜勤やサービス残業があること)」は介護職が辞める大きな理由のひとつだが、介護職が辞めるその他の理由として「利用者やその家族の権利意識の高さ」、「利用者からの暴力」、「利用者からのセクハラ」があると本書で著者は述べる。
介護保険制度が導入され、介護が「サービス」になった結果「介護保険を払っているのだから、きちんとお世話されて当然」と思う利用者やその家族が増えて、権利意識の高い利用者やその家族への対応に介護職が苦慮しているそうである。
いうなれば、介護職に対する感謝の気持ちがなく「お金を払っているのだからやってもらって当然」という利用者やその家族の態度が、激務である介護職のモチベーションをますます減退させるのだ。こういった話は、介護施設と同じく福祉施設である保育園で働く保育士と共通すると思った。
外国人介護職の獲得競争に負けるかも
本書で一番印象に残ったのは「外国人介護職を受け入れに関する課題」である。
現在、介護職が不足しているのは日本に限らない。ヨーロッパ各国でも日本と同じように介護職が不足している。
ヨーロッパ各国は外国人介護職の受け入れに積極的である。
日本はアジアの一部であり、アジアの人々は介護職として働く際に同じアジアに属する日本を選ぶのかというと、そうとは限らないようだ。
よくよく考えてみると、アジアには公用語が英語である国も多くあり、英語が理解できる人にとっては、難解な日本語を習得するよりも、英語に近いフランス語・ドイツ語・スペイン語・イタリア語などを習得するほうがずっと楽だ。
「日本後習得の難しさ」は日本にとって外国人介護職の獲得競争においてマイナスということだ。
それに、ヨーロッパ各国のほうが日本と比べて移民受け入れに歴史があり、アジアの人々は日本よりもヨーロッパ各国のほうが働きやすい。
それだけではない。
日本が働きにくいのは、日本は労働環境がシビアで、少しのミスも許さない職場環境のせいもあるらしい。これは介護職に限らず日本の労働環境全般にいえる話だ。
外国人労働者だけでなく、日本人の労働環境としても今のような厳しい労働環境はどうなんだろうと思う。
外国人からみると「この程度の賃金でこんなにシビアな労働環境を求められても困る」と思われても無理はない。
日本人はシビアな労働環境に見合った賃金を労働者に支払っていないということだ。そのことを多くの日本人が気づいていないだけだ。
本書を読んで、なんらかの積極的な取り組みを導入しない限り、今のままでは外国人介護職は働き先として日本よりもヨーロッパ各国を選ぶだろうなと感じた。
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