読書感想「自暴自伝」村上ポンタ秀一
以前から思い出しては何度も読み返している本がある。
それは「自暴自伝」という本だ。
書籍「自暴自伝」の概要
この本は、名ドラマーである村上ポンタ秀一(以下「ポンタ氏」とする)氏による自伝である。実際は、インタビュアーがポンタ氏にインタビューした内容を構成したものである。
この本ではポンタ氏の経歴が年代を追って書かれている。
なかでも、数々の有名ミュージシャンとポンタ氏のやり取りが、ポンタ氏のコメントを交えながら詳しく記載されているのが面白い。
この本に出てくる有名ミュージシャンは数えきれない。
一例を挙げると、井上陽水、矢沢永吉、坂本龍一、山下達郎、矢野顕子、吉田美奈子、玉置浩二、沢田研二、郷ひろみ、山下洋輔、渡辺香津美、大貫妙子、大村健司、五輪真弓など。それだけでなく、マイルス・デイビス、スティーブ・ガット、エリック・クラプトンなどの外国のミュージシャンについても書かれている。
この本は面白いエピソードが満載なので、70年代80年代の日本の音楽シーンに興味がある人はぜひ読んでほしい。かなり密度が濃い本だ。
この本の中に書かれた面白いエピソードをいくつか紹介する。
エリック・クラプトンを「いいギタリストになれるよ」と励ました話
エリック・クラプトンが誰なのかを知らずに、サンフランシスコでエリック・クラプトンの演奏を聞いて「お前は見どころがある」とクラプトン本人に伝えたという話が載っている。今でもクラプトン本人に会うと「いいギタリストになれると励ましてくれたね」と言われるらしい。
郷ひろみや沢田研二がすごいのは
郷ひろみや沢田研二は、ドラムなどの他の楽器のレコーディングには来ないそうだ。
歌手は歌入れのレコーディングで神経を尖らせながら何回もやり直したりするのが普通だそうだが、彼らはレコーディングで一度ツルっと歌ったらそれで終わりだそうだ。
彼らは歌手である以前にカリスマなのだそうだ。特に沢田研二は別格(ムッシュかまやつ氏談)とのこと。
売れる歌手というのは歌が上手い以前に何かを持っているということなのだろう。納得。
至言
この本の解説でインタビュアーと小西康陽氏が述べているとおり、この本の中にポンタ氏はときどきポロっと至言を話されるのだ。それが本当に心に染みるのである。そのうちのいくつかを紹介する。
・歌が上手い歌手は歌う時、例外なく肩がむせんでいる
・ドラムは歌詞をみて叩く
・ドラムは呼吸が大事
この本を読むと、70年代のミュージシャンは体を通して音楽を体得してきたのだということがわかる。70年代の音楽に心躍らさせるのは、体で会得した音楽だからかもしれない。
【2021年3月15日追記】
2021年3月9日付で著者の村上”ポンタ”秀一氏がお亡くなりになったとのこと。
70年代80年代の歌謡曲は村上氏がドラムを担当して録音された曲が多々あり、この時代の楽曲が近年評価されているのは村上氏の演奏と無関係ではないと思う。たくさんの素晴らしい演奏ありがとうございました。
ご冥福をお祈り申し上げます。
自暴自伝
著者:村上”ポンタ”秀一
出版社:株式会社文藝春秋