中野区・認可保育所の人件費比率【ブラック保育園】
2021年11月発行のなかの区議会便り(No.268 令和3年第3回定例会号)を読んでいて、
「保育所等の人件費」に関する質疑応答が載っていることに気づいた。
出典:なかの区議会_268_02-05_4校.eca (kugikai-nakano.jp)
保育所等の人件費は、保育の質を計るうえで重要な指標のひとつだ。
なぜなら、人件費が低い=給料が安い、に直結するからだ。
過去の中野区議会の議事録を調べてみると、
むとう有子議員が保育所の人件費について継続して取り上げている。
残念ながら、保育の質や人件費について中野区議会で取り上げられることはあまり多くない。
たとえば「おむつ持ち帰り」のような保護者の利便性を高める施策は票につながるけれど、保育所の人件費のような話は票につながりにくいからだろうか。
保育園の人件費の問題は、数年来話題になっている「ブラック保育園」にも関連するため重要だと私は思う。
そこで今回は、中野区内・認可保育所の人件費比率について取り上げる。
なぜ保育園の「人件費比率」が重要なのか
保育園のような教育・福祉施設は、経費に占める人件費の割合が高いことが特徴だ。
なぜなら、製造業や小売業とは違って、
保育園運営は商品や原材料の仕入れが必要なく、大規模な事業所も用意する必要がない分、
人件費の比率が高くなるからだ。
保育経費に占める人件費の比率はおおむね7割以上が望ましいとされる。
保育経費に占める人件費の割合が高いほど、職員に給料をきちんと払っているといえるからだ。
人件費比率が5割未満:ブラック保育園のおそれ
保育経費に占める人件費の割合(人件費比率)は、ブラック保育園かどうかを見極める目安のひとつだ。
人件費比率を保育の質の指標としている自治体も多い。
人件費比率が5割を切るとブラック保育園の可能性が高くなるといわれている。
人件費比率が低いほど、職員に支払う給料が少なく、人件費をケチっているブラック保育園の可能性が高くなる。
ただ、人件費比率が低い理由は色々とあるのも確かだ。
たとえば新卒職員が多いために人件費が少ない場合もある。
しかしこの場合も、新卒職員が多い=経験が浅い職員の割合が多いということだから、
保育の質が高いとは決していえない。
中野区・人件費比率50%未満の認可保育所(株式会社立)
中野区内の株式会社立認可保育所のうち人件費比率が50%未満の園の数を下表に示す。
出典:なかの区議会_268_02-05_4校.eca (kugikai-nakano.jp)および令和2年09月23日中野区議会決算特別委員会の会議録
上の表をみると、
中野区内・人件費比率が50%未満の認可保育所(株式会社立)は、
4園(2017年度)→6園(2018年度)→12園(2019年度)→14園(2020年度)
というように、年を追うごとに増えている。
つまり、ブラック保育園のおそれがある認可保育所が増えているということだ。
令和2年9月23日中野区議会決算特別委員会の会議録から
そのほか、令和2年09月23日中野区議会決算特別委員会の会議録で気になったことを抜粋する。
2018年度
中野区内・株式会社立認可保育所21園の人件費比率(平均)54.9%(最低36.8%)
2019年度
中野区内・社会福祉法人立認可保育所23園の人件費比率(平均)71%
中野区内・株式会社立認可保育所35園の人件費比率(平均) 54%
中野区内・人件費比率50%未満の認可保育所の内訳:
社会福祉法人立は0園
株式会社立は12園
(36%が1園・39%が1園・41%が1園・42%が1園・43%が1園・44%が2園・45%が1園・46%が2園・49%が2園)
以上から、中野区内・社会福祉法人立認可保育所の人件費比率は平均7割と、人件費を職員の給料に還元している園が多いようだ。
一方、中野区内・株式会社立認可保育所の人件費比率は平均54%と、社会福祉法人立認可保育所よりも低い。
とはいえ、平均54%という数値から、株式会社立認可保育所でも人件費比率が社会福祉法人と同程度と低くない園もあることを付言しておく。
保育の質を高めるためには
世田谷区は、人件費比率50%未満の保育所に「区の事業加算をしない」というペナルティを課すことで、保育の質の維持に努めている(令和2年09月23日中野区議会決算特別委員会の会議録)。
一方、中野区では人件費比率が低い園を公表していないし、人件費比率が低い園にペナルティを課すこともしていない。この点はむとう有子・中野区議会議員も議会で言及している。
最後に
ここ数年は中野区のみならず、近隣の渋谷区・新宿区でも認可保育所の空きが出ている。
待機児童解消のため、今までは認可保育所の数を増やすことが最優先だった。
今まで「保育の質を守る」というこどもの利益よりも「保育所の数を増やす」という事業者の利益が優先されてきたように思える。
けれども、子どもの数は減少傾向にある現在、そろそろ保育所の数を増やす方向から保育の質を高める方向へと舵を切る時期ではないだろうか。