【追悼】楳図かずお先生
楳図かずお先生が亡くなった。享年88歳。
私のような素人が言うのも何だが、楳図かずお先生は、余人をもって代えがたい稀有な才能を持った芸術家だった。
なにせ楳図かずお先生は手塚治虫先生から「天才」と評されていたのだから。
それでいて、ご承知のとおり、楳図かずお先生は「大先生」みたいなエラそうな雰囲気を全くまとっておらず、チャーミングで非常に繊細な方だった。
繊細だからこそ素晴らしい作品を創り出すことができたのだろう。
普段はあまり漫画を読まない私も、楳図かずお先生の漫画はたくさん読んだ。
私が好きだった楳図作品は「洗礼」と「鬼姫」だ。
「洗礼」と「鬼姫」どちらの作品も「人の美醜」に関する物語である。
「洗礼」は、昔は美人女優でならしたが今は醜くなってしまった母親が娘の肉体を手に入れようと妄想する話。
「鬼姫」は、病で醜くなってしまった姫の影武者としてさらわれた田舎娘が鬼姫(暴君)として振る舞うことを強制される話。
「洗礼」も「鬼姫」も、主人公である女たちのやり場のない感情が伝わってくる。
楳図かずお先生は、運命に翻弄されて感情が揺れ動く女性を描くのが上手い。
楳図かずお先生は、「鬼姫」のような時代物の短編をいくつか描いている。
「鬼姫」のほかにも、タイトルは忘れたが、暴君でならした殿様(父親)を恐れる気弱な跡取り息子が狂ってしまい、お面を被って人を殺める話が心に残っている。
私は楳図かずお先生が描く時代物が好きである。
着物姿の人物が実に活き活きと描かれている。
百姓を百姓らしく・殿様を殿様らしく精巧に描き分ける楳図かずお先生の画力には感嘆せずにはいられない。
子どもの頃、中野サンモールで楳図かずお先生をよくお見かけした。
トレードマークの赤と白のボーダー柄のTシャツを着ているから、遠くからでも楳図かずお先生だとすぐ判った。
当時楳図先生の事務所は高田馬場にあったらしいが、なぜ中野で楳図先生をよくお見かけしたのかは分からない。
不世出の芸術家・楳図かずお先生の作品は後世まで輝き続けるに違いない。